芽生えの春

 手慰みに編んだ野花の指輪がそっと、開いたハンカチに受け止められたとき、その一瞬だけ時が止まったような気がした。胸の辺りがくすぐったくて、目が合うとどきどきした。

 テープ交換の待ち時間、手持ち無沙汰になったわしは、適当な日陰にしゃがみ込んでシロツメクサを摘んだ。幼いころ上の姉はんが教えてくれた、くるくると茎を丸めて巻き付けるだけの簡単な遊び。茎が長いものを選ぶのがコツで、端っこを輪の隙間に差し込むと見栄え良く仕上がる。姉はんらのように上等な冠をこしらえることができず、半ばふてくされていたわしにもこれなら作ることができた。

 最後の処理を終えて顔を上げると、ちょうど化粧直しを終えたHiMERUはんがこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。奥には財布を手にするニキはんの背中。HiMERUはんに小さく手を上げながら、撮影はまだまだ再開しそうにないなと思った。

「ん」

 立ち上がって、手のひらを差し出した。

「これは?」

「シロツメクサの指輪、今作ってたんよ」

「ああ、なるほど。よくできていますね」

 HiMERUはんは右手の拳を口元に添えたまま、しげしげと眺めて頷いた。

「ん」

 今度は軽く握った手を突き出してみると、小さく目を見開いて、

「HiMERUにくれるんですか?」

 と瞬いた。

「うん、ぬしはんにあげる」

 懐かしくなって作った指輪をなんとなく、HiMERUはんにあげたいと思った。そうは言っても、もとは道端の草むらから引っこ抜いただけの雑草だ。だからせいぜい、束の間の話題になればよかった。指にはめてみたり作り方を説明したりして、SNSに載せる写真を何枚か撮ったら、後は土に還すものだと思っていた。

 ところがHiMERUはんは、おもむろにポケットをまさぐるとハンカチを取り出した。アイロンがピンとかかった濃紺に、冬場よく着ていたセーターと同じ印が縫い付けられている。四つ折りに開いて両手に広げると、わしの方へと差し出した。

「置いてええの?」

 この綺麗なハンカチに、その辺に放って終いだと思っていた野花を。

「ほんまに?」

 汚すのが忍びなくて、念を押して尋ねた。小さな虫は潜んでても分からんし、潰れたら変な汁とか出るかもしれんよ。ハンカチと顔を交互に見つめていると、HiMERUはんはほんの少し眉を下げ、

「せっかくいただいた可愛らしいプレゼントです。できる限り大切にしますよ」

 と微笑んだ。

「ありがとうございます、桜河」

「ほな、えっと、どういたしまして」

 指輪はころんと転がって、十字の中央に収まった。四つ角を摘まみ、ふんわりと折り畳む細長い指。やがて上着のポケットに優しく仕舞われるのを見ている間、わしはなんだか頭がぼーっとして、頬がほんのり熱かった。わしの心臓ごと柔らかく包まれたような、不思議な心地がした。

送信中です

×

※コメントは最大10000文字、30回まで送信できます

送信中です送信しました!